おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

五百田達成著「あの人との距離が意外と縮まるうまい呼び方」

 5月も半ばになり、新入社員のことが少しずつ分かってきたり、あるいは新入社員側からしてみれば、職場の人のことが少しずつ分かってきたところだろうか。なんだかレビューの期間が空いてしまったが、また久しぶりに本を紹介する。

 今回紹介する本は、五百田達成さんが書かれた「あの人との距離が意外と縮まるうまい呼び方」という本だ。こういう風に紹介して、著者の名前がすぐに読めただろうか?著者の名前の読み方は、いおた・たつなり、と読むのが正しいそうだ。実際にそうなのかはさておき、自身の名前が初対面の人にほぼ正しく読まれないこともある著者は、名前の呼ばれ方に人一倍なのだと、この書籍の中では自己言及されていた。

 本書はタイトル通りなのだが、人と接する時の名前の呼び方について書かれた本だ。職場だけで考えても、役職や先輩をつけて日々呼んでいる人もいたり、あるいは〜さんというように呼ぶ人もいたり、意識的にせよ無意識的にせよ、様々な呼び方を使い分けていることだろう。もしくは、〜くんとか〜さん、とりわけ仲の良い人とは、呼び捨てだったりあだ名だったりという場合もあるかもしれない。一見、こういった呼び方は、心理的な距離が先にあってそれについてくるものと思いがちだが、むしろ呼び方を変化させることで、心理的距離を変えていくことができるのではないか、と著者はいう。

 これはまあ、当たり前といえば当たり前の話なのだが、本書で指摘されるまで恥ずかしながら自分自身は、呼び方を戦略的に変えていったことというのはなかった。しかし、呼び方を変えることで、心理的距離感を変えることができるだろう、というのは、大いに納得するところであり、どうして今まで気づかなかったのだろう、という気持ちに、本書を読んでなった。

 また本書では、面と向かっている人への呼び方だけでなく、誰かと会話をしている時に、その場にいない第三者に言及する時の呼び方のコツについても著者の持論が展開されている。無駄なところで嫉妬や変な誤解を生まないようにするために、こういったことはビジネスコミュニケーションで押さえておくと良いことだな、という風に読んでいて思った。

 個人的には本書を読んでみて、例えば、あの人とはあまり仲良くなりたいと思っていないから、苗字+さん、という呼び方のままでいいや、と思ってしまう人について、逆に呼び方を変えてみると、なんだか仲良くなりたい気がしてくるのかどうか、というところも気になった。そういったところは本書では、自分の記憶の範囲では言及されていなかったと思うので、少し実験してみたいところである。

丸幸弘著「ミライを変えるものづくりベンチャーのはじめ方」

 とても面白い本だった。ここ最近読んだ本の中で上位にはいる満足度だった。ものづくりベンチャーをやっていくには、すさまじい熱意が必要だと思うが、そういった現場で過ごす著者や、そういった現場の熱量が込められているような本だと思った。特にベンチャーをやるよう予定は今のところ自分には全くないのだが、この本から伝わってくるそうした熱量によって、日々の仕事に前向きになれるような気がした。

 本書は株式会社リバネスを経営する著者が、ものづくりベンチャーを立ち上げ成功させるには何が必要かについて、これまでの経験を背景に考えをまとめた本だ。リバネスを浅学にしてあまりよく知らなかったのだが、公式のホームページによると、教育応援プロジェクト、人材応援プロジェクト、研究応援プロジェクト、創業応援プロジェクトを柱に、「科学技術を発展させ、その力を社会に実装する」ことをミッションとして、事業を行なっている会社だそうだ。本書の中でも、著者やリバネスがコミットしてきたベンチャー企業が例に出てくる。そういったものの中には、ミドリムシで有名なユーグレナなどが含まれている。

 目次は以下の通りであった。

第1章 「解」は転がっていない、だから一緒に考える
第2章 「最強軍団」を集める!
第3章 視点を変えると、ベンチャーは動き出す。
第4章 負を長所に変える!
第5章 「if」を常に考えて動く
第6章 マイルストーンを考えた賃金手当の極意
第7章 シリコンバレーで本物を知る
第8章 フィニッシュを考えてスタートしよう
(本書 p7-p12より抜粋)

 どの章も読みごたえのあるものだった。様々な学びがあったが、個人的に勉強になったのは、創業者のビジョンに関する記述だ。ベンチャーは技術があるから、それを何かに活かしたい、というようなスタート地点ではあまりうまくいかないだろうと著者はいう。そういった微熱的な発想では駄目なのだ。そうではなく、その前に解決したい課題、例えば貧困を世の中から無くしたい、とかそういうものがあり、そのあとに初めて、ビジョンを実現するための技術があるべきだという。もちろん、これは技術を軽視しているというわけではなくて、画期的なことをするための技術作りにも大きな困難や様々な発想が必要になるということは前提してある。ただそれだけではなくて、そのベンチャーをつくることで何を成し遂げたいのか、という明確なビジョン、そしてそれに対する情熱、そういったものが絶対に必要だという。困難な課題が頻発するものづくりベンチャーであるからこそ、そうした事業を行うための基礎がしっかりとしていけないということだろう。

 他にも、「課題を解決できるど真ん中の研究者なんていない」、「自分を成長させたいという人よりは、ビジョンに共感してくれる人を選ぶべき」など、他にも面白いなとおもう考え方が随所に散りばめられていた。そして何より、冒頭でも述べたが、この本には溢れ出る情熱が感じられた。そういう意味で、ものづくりベンチャー起業を考えていない人でも、ぜひ読んでほしいビジネス書だなと思った。

谷尻誠著「CHANGE」

 本書は、建築家、起業家である著者が自身の仕事観についてまとめたものだ。浅学にして知らなかったのだが、wikipediaによると著者は建築で様々な賞をとってこられた方で、その道では有名な人のようだ。wikipediaに載っていてへぇ〜と思ったのだが、映画「未来のミライ」では、主人公の自宅を設計を担当したとのことだった。

 本書では、様々なキーフレーズを軸にそれらについての説明が展開され、著者の仕事に対する考え方や想いがつまびらかにされていく。建築に直接関係のない分野で働いている人にとっても、含蓄のある考え方が豊富にあると思う。例えば第1章の項目を引用してみると、以下の通りだ。

第1章 今の仕事、楽しいですか?
1 「働く」とは傍をラクにすること
2 「漂流グセ」を付ければ、仕事はもっと楽しくなる
3 仕事の不安は仕事で解消。頼られて伸びるタイプになる
4 「違和感」を大切にする。仕事が好きになるナイス・ミスマッチ
5 「なぜ」を3回繰り返すと、悩みの本質が見えてくる
6 分析グセを付けると脳がクリアになる。過去の自分に感謝!
7 仕事を楽しくするのは「知識」よりも「執着できる能力」
8「マインド設定」という特効薬。自分の中にアプリを入れておく
(本書p10より引用)

といった感じだ。

 どこかで聞いたような話がないわけではないが、全体的には非常に面白い話が多い。読むことで自分の仕事の仕方を省みるようなきっかけになるパートが多いと感じた。

 個人的に特に気になったのは、第2章の途中で述べられていた会議のあり方、会議での努め方について述べられている部分だった。以前このブログで、佐藤可士和の打ち合わせという本を取り上げたが、谷尻さんも会議(打ち合わせ)に流儀がある、というところは面白いなと感じた。勝手な想像だが、佐藤さんにしても、谷尻さんにしても、クライアントの要望について、がっつり向き合いながら何かを作る、という意味で似た側面のある仕事の人だから、重要だと思うポイントが同じになったのだろうか。

 ただ職業や職位によって程度の差はあるにしても、クライアントがいる、というのはどういう仕事でも基本であるはずで、そういう意味では、どんな人も会議や打ち合わせをもっと大切にするべき、というのは、言えるのではないのかなとも思った。

ボーク重子著「パッションの見つけ方」

 全米最優秀女子高生コンテストで優勝した娘さんを育てた教育方法とは、というテーマで著者が数年前に複数のテレビ番組に出演されているのを見た記憶があった。そのときも「パッション」という言葉をキーワードにして、自身の教育方法を語られていた。本書をたまたま発見し、改めて「パッション」や教育というものについてどういう考えを持っているのか、学んでみるのも面白そうだと思い、本書を手に取った。

 本書では、①パッションとは何か、②パッションは子供の教育にどのような影響を与えるか、③子供だけでなくお母さんにも必要、④パッションを仕事にするべきだろうか、⑤定年後こそパッションが必要、という5個のメインテーマに沿って話が展開されている。どのパートも学びになるところがあったが、個人的に興味深かったのは、①パッションとは何か、という部分だった。

 パッションというと、とてもぎらぎらしているもののように感じる人もいるかも知れない。あるいは、ある種躁状態のような気分の人を思い浮かべる人もいるかも知れない。自分も以前テレビ番組で著者がパッションについて語っていた時は、パッションをそういうようなものと捉えて著者が語っているのだと思っていた。しかし、そういうものだけでなく、ある種「静かなパッション」というものもパッションにはあるのだという。

 また、パッションというのは、ひとつ何かに向かうパッションがあれば、例えば他のことで嫌なことがあっても頑張れるようになる、などのように、直接パッションが向かう先以外のことに関しても影響があるものだそうだ。また、パッションにはレベルがあり、ちょっとした好きとか、気になる、というパッションのタネ、というようなものを、大きなパッションになるよう、パッションを育てる、という側面もあるそうだ。

 自分自身のパッションを仕事にできると幸福なのか、あるいはパッションでないことを仕事にしていると幸福ではないのか。この辺りの疑問に対する著者の答えも面白かった。よくある自己啓発書だと、パッションを仕事にした方が良いですよ、といって終わりそうな気がするが、著者は必ずしもそうではないという。自分自身のパッションを今現在自覚している人、そうではない人、どちらにも何かしら参考になることがある本だと思った。

パッションの意味合い
パッションは育てるもの
母こそ必要
子供のためも色々な方法がある
必ずしも仕事にするのがベストではない

ただ個人的には、仕事というのは個人のパッションの有無だけで語られるほど浅いものではないのではという気持ちもした。はじめは嫌々やっていても、どこかでその仕事の面白さに気づき、そこからパッションが生まれてくるということもあるのではなかろうか。

坂野俊哉、磯貝友紀著「SXの時代」

 去年くらいからだろうか、テレビやラジオなどのマスメディアでSDGs (Sustainable Development Goal) という言葉が盛んに使われるようになったのは。ニュース番組だけでなくバラエティー番組でも、芸能人がSDGsという言葉を使うのを観るようになってきている。恥ずかしながらSDGsという言葉を自分が聞いたのは、そういう流れが出来てきてからでめちゃくちゃ遅かった。SDGsという言葉自体は、実際は2015年ごろからある言葉なので、そういったところへの意識がかなり低かったといえるだろう。

 本書「SXの時代」は、自分と同じようにサステイナビリティーへの意識が低かった人への良い入門書といえるだろう。例えば、SDGsという言葉もそうだが、その他のCSV (Creating Shared Value)、ESGs (Environment, Social, Governance)、CSR (Corporate Social Responsibility) などの言葉も説明できるだろうか?サステイナビリティーといったときに、いわゆるCO2削減目標以外の項目について語れるだろうか?本書はそういった基本的な事柄の解説や、なぜ企業活動でサステイナビリティーが重要なのかということを大変分かりやすく解説してくれる。

 色々な角度から企業活動とサステイナビリティーについて解説されているが、そもそもなぜサステイナビリティーが企業活動にとって重要なのか、というところの解説がわかりやすくていいなと感じた。「親亀こけたら子亀、孫亀みなこけた」などのキャッチーな表現を交えながら語られていて、とても読みやすかった。サステイナビリティーは、単に企業のイメージアップに活かせることの出来るものですよ、ということでなく、これからの時代に企業活動を継続していく上で、どの企業も必ず考えておかねばならない必須の経営課題として、捉えるべきことだという。思っている以上に切実で真剣な問題として取り組むべき、というのが本書を読むと分かると思う。