おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

田所雅之著「起業の科学」

 たまたま本書を見たときになんだか大きい本だな、というところから目を引いて、本書を目にとった。一般的なビジネス書のサイズではなく、ちょっとした図鑑の大きさだ。読んでみると分かるのだが、本書がこんなに大きい理由はいろいろなチャートやカラーの写真を沢山使っているためだった。

 本書はコンサルタント業やベンチャー企業の立ち上げを経験し、現在はベンチャー企業への投資を行なっている著者が、特にスタートアップを興すということを科学する、ことを目標に書き上げた本だ。本書では様々な経営者の本やブログなどをもとに、スタートアップを運営していくには、ステージごとに何に気を配っていく必要があるかということが書かれている。この知識は何も直接スタートアップを立ち上げ、運営している人にだけ役立つ知識ではない。もう少し大きな会社に所属していても、そこで社内ベンチャー的なことをやっている人には参考になるところも多いだろう。また、投資とはいわなくとも、業務などでも、スタートアップに何らかの形で関わる必要
のある人には、現在相手のスタートアップがどういうステージで、どういう課題を抱えているか、というところを推し量ることに役立つだろう。

 ところで、スタートアップと起業という言葉を、意味を分けて使っている人がいることは知っているだろうか?もし、答えがNoなら、本書のさわりを読むだけでも得るものがあるだろう。もし、今起業を考えている人がいるなら、本書は非常にオススメだし、構想しているビジネスモデルがスタートアップの要件を満たすようなものであるか、を考えるだけでも、得るところがあるだろう。

 本書は、エリック・リーンという方が、はじめに提唱したリーン・スタートアップ、という考え方に強く影響を受けているようだ。これには、スタートアップを興すという一見博打にも思えることについて、再現性を高める方法をみつける、という考え方がもとになっている。うまくいったスタートアップの共通点を明らかにし、スタートアップの成功について再現性を高める方法を見出す、という思考プロセスを本書で追体験することで、スタートアップに直接関わる人も、間接的に関わる人も、きっと得るところがあるはずだ。

加藤直人著「メタバース さよならアトムの時代」

 本書はtwitterで知った。多くの人がメタバースのことを学ぶのにとても分かり易かったと紹介しており、自分もそのうち読みたいなとずっと思っていた。今回はようやく読めたので、本書「メタバース さよならアトムの時代」を紹介する。

 本書の著者加藤直人さんは、クラスター株式会社という会社を経営されている方だ。クラスター株式会社は、メタバースプラットフォームの提供を行う会社であり、まさしくメタバースに関連する会社だ。そういう意味で著者は、メタバースを解説するのにふさわしい一人であるのだろう。メタバースを解説するにあたって、本書では様々な角度から解説がなされている。そもそもメタバースってなんなの、というところから、どういう歴史的背景があるか、メタバースをつくる代表的な会社や個人としてどういう人たちがいるか、メタバースはどのような要素から構成されるか、そしてメタバースが生み出す新しい経済圏にはどのような可能性があるか、などなど。少し硬く感じる章もあったが、全体的にとても読みやすかった。

 個人的にはメタバースFF14はどう違うか、という疑問に答える章があって良かった。メタバースという言葉を聞くたびにFF14とどう違い、どう新しいものを思い描いているのだろうか、ということは感じていたが、自己組織化という言葉をキーワードに著者はその違いを説明していく。このあたりはそれが正しいかどうかというよりも、メタバースに可能性を感じる人たちはメタバースという言葉をどう捉えているかを学ぶために参考になる部分だと感じた。また、FF14メタバースが完全に異なるものというよりは、FF14メタバース的になることは全然ありうるのではとも思った。

 本書の中でも新しい文化の担い手が若者であることを感じるが、そういったものをまさに知識として本で学んでいる自分はもはや悲しいことにおじさんであり、ほおっておくと全く時代遅れになってしまう可能性があるな、とも感じた。メタバースって全然わかんないよなーという、自分と同じような感覚の人は、手遅れになる前に本書を読んで新しい世界の感触を学んでみるといいと思う。

林總著「成果が出ないのは、あなたが昔の「燃費の悪いアメ車」な働き方をしているからだ」

 本書はドラッカーの考え方についての入門書という本だ。架空の病院の経営を題材に、知的労働者の生産性、営利組織と非営利組織の共通点といったポイントが解説されている。病院は患者のために医療を提供するべき場所で赤字であっても仕方がない、儲けを第一にするのは間違っている、という考えの主人公三郷大輔が、ひょんなことから会社経営のプロである西園寺と知り合ったところから本書は始まる。病院は本当に赤字であっても構わないのか、赤字を解消するために本当に効果的な方法は何か、経営状態をむしろ悪化させる技術革新とはどのようなものか、経営改善のために忘れてはいけないことは何か、等々。少ないページ数やあまりにキャッチーなタイトルからは想像できないくらい良い内容が書かれていたと思う。

 実際には、ドラッカーの本や、ドラッカーの考え方を引用した他の本でも、同じようなことが書かれていると思うのだが、本書の良さとして、わかりやすさが挙げられる。架空の話ながら、実際に問題として上がってきそうな事柄を題材にドラッカーの考え方を使えば、どのように見方を変えられるか、という点がスラスラと入ってくる。これには、ドラッカーの言葉をやたらとたくさん引用するのではなく、少数にしぼっているため、本書がわかりやすい印象なのだと思う。

 個人的には、技術革新が経営状態を悪化させることもある、という部分の話が面白かった。当たり前の話だが、より高度な機械を使うようになれば、それを扱う人の知識や技術も高度になってくる可能性がある。また、保守費用なども効果になるかも知れない。本書の場合では、よりよい医療機器を入れれば、患者さんによりよい医療を提供できるようになり、患者さんが増え、結果的に病院の経営状態の改善に貢献できるはずだ...、としていたところが、稼働率などを考えると、誤りであった、という話が作られている。文字にしてみるととても当たり前のことのように思うが、誤ったイノベーションの捉え方のまま改善をやって、失敗している会社というのは実は沢山あるんじゃないかと思う。

レオ・バボータ著、有田春翻訳「減らす技術」

 ビジネス書レビューを行う自分にとって、生産性に関する本というのは、どれも似たり寄ったりになってくる。様々なハックが紹介されていても、どこかで読んだなあという印象を拭えない。しかし、本書は多くの生産性の向上を語る本の中で、少し変わった、しかしとても大切なことを語ってくれる本だった。

 本書の要諦は、ともかく、やるべきことを厳選する、というところだ。生産性というと、日々忙しい中で、どのように効率的に仕事を片付けていくか、どのように仕事を回していくか、などのように語られることが多い。時短の術を様々に語り、1日の間にどれだけ多くのことをこなせるようになるか、ということを重要視している本も多い。本書はそれとは逆をいく。日々のタスクをとにかく絞り、これだけやったら今日は大満足だ、というようなタスクをまず考えるが何より重要だという。こう書いてみると、なんだ当たり前じゃないか、と感じる人もいるかも知れない。だが、本当にそれを実践できている人はどれだけいるだろうか?また、タスクの絞り込みを本当に正しくできているだろうか?思うに、タスクを絞るために優先順位を考えるということは、自身の人生観を見つめ直すことでもあると思う。家庭か仕事か、それとも趣味か。忙しい日々、様々な役割をこなす必要のある中で、自身にとって本当に重要なことは何なのか。そういったことを日々整理し、自身の強い自覚を持った暮らしというのは、とても重要であるはずだが、意外と忘れがちだと思う。そういったことに少なくとも本書を読んでいる間は、想いを馳せることができると思う。

 日々、忙しくしているのに、何だか充実感がないな、と感じる人には是非読んだ欲しい本だと思う。

マーシャル・B・ローゼンバーグ著(安納献監修、小川敏子翻訳)「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法」

 久しぶりに面白い本を読んだな、という印象だった。サティア・ナデラさんがマイクロソフトのCEOに就任する際に、取締役にこの本を読むよう話した、ということをoff topicで聞いて、この本を知った。

 この本は単なるアンガーマネージメントの本とは異なる。よくあるアンガーマネージメントの方法は、衝動的な怒りをどうやって抑えるか、というところに焦点が置かれているように思う。喉元過ぎれば熱さを忘れる、ということで、短期的な行動で損をしないようにする術が語られている。しかし、本書はそうではない。もともとNonviolent communicationというタイトルの本書は、自分の歪んだ認知に気づき、それを補正していくことで、心の底からの共感を持って相手に接することができるようになるということを繰り返し説く。こうして書くとなんだか宗教じみた話のように思えるけど、そうではない。むしろ、科学に近いと思う。本書の要諦は、まず相手や自分の気持ちを観察し、そこからわかることを率直に受け取ること、自身が相手に抱いている偏見や誤解に基づく解釈を改めること、そうしたことが心からの信頼関係を作るためには重要だ、というところだ。

 正直な話、本書を読めば明日から誰とも争わないようになれるのかというと、そういうわけではない。本書は実践のためのルールを教えてくれるだけで、そのルール通りに行動できるようになるためには試行錯誤が必要だろう。実際、本書の著者も、人に良いコミュニケーションのルールを教える立場であるものの、時折そのルールの実践を忘れてしまったことや、難しく感じることもあったという。

 逆に考えると、良いコミュニケーションを行うということはそれだけ難しいことだということだろう。だからこそ、本書のような規範となるべき本を何度も読み返しながら、日々の自身の行動を律し、反省と改善を繰り返していくことが重要なんだろう。