おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

マーシャル・B・ローゼンバーグ著(安納献監修、小川敏子翻訳)「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法」

 久しぶりに面白い本を読んだな、という印象だった。サティア・ナデラさんがマイクロソフトのCEOに就任する際に、取締役にこの本を読むよう話した、ということをoff topicで聞いて、この本を知った。

 この本は単なるアンガーマネージメントの本とは異なる。よくあるアンガーマネージメントの方法は、衝動的な怒りをどうやって抑えるか、というところに焦点が置かれているように思う。喉元過ぎれば熱さを忘れる、ということで、短期的な行動で損をしないようにする術が語られている。しかし、本書はそうではない。もともとNonviolent communicationというタイトルの本書は、自分の歪んだ認知に気づき、それを補正していくことで、心の底からの共感を持って相手に接することができるようになるということを繰り返し説く。こうして書くとなんだか宗教じみた話のように思えるけど、そうではない。むしろ、科学に近いと思う。本書の要諦は、まず相手や自分の気持ちを観察し、そこからわかることを率直に受け取ること、自身が相手に抱いている偏見や誤解に基づく解釈を改めること、そうしたことが心からの信頼関係を作るためには重要だ、というところだ。

 正直な話、本書を読めば明日から誰とも争わないようになれるのかというと、そういうわけではない。本書は実践のためのルールを教えてくれるだけで、そのルール通りに行動できるようになるためには試行錯誤が必要だろう。実際、本書の著者も、人に良いコミュニケーションのルールを教える立場であるものの、時折そのルールの実践を忘れてしまったことや、難しく感じることもあったという。

 逆に考えると、良いコミュニケーションを行うということはそれだけ難しいことだということだろう。だからこそ、本書のような規範となるべき本を何度も読み返しながら、日々の自身の行動を律し、反省と改善を繰り返していくことが重要なんだろう。