おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

日経トップリーダー、日経ビックデータ編「AIが同僚」

 AIをテーマにしたビジネス書はいくつもあると思う。AIというテーマに限った話ではないが、知りたいトピックがあるときは、いくつかの本や記事をまたがって読んで、その過程で自分なりの考えを作っていくことが重要だろう。特にAIのような新しく出てきた分野で、日々進歩している分野では継続的に情報収拾していく必要があるだろう。

 「AIが同僚」という面白い言い回しがタイトルな本書は、様々な企業でのAIの導入事例を紹介し、そうした具体例からAIの可能性を考察するような本になっている。発刊年度が2017年ということで若干古い本ではあるのだが、かなり幅広い業種から事例をとってきていて、そんなこともあったのかと面白がりながら読み進めた。個別の事例で、特に自分が興味深かったのは、人事の部分でAIを活用した事例だ。その会社の人事では、採用前に採用後の活躍を予測する、ということをAIで実現しようと試みているそうだ。ただAIの可能性として興味深いものではあるものの、相当大きな会社などではないと、AIを活用するための人事のデータが足りないような気もするし、実際どれくらいの予測精度が出るのかは今後の検証が必要になるだろうし、これは成功例というよりは実験例だなとも感じた。しかし、色々な可能性を試していくことで、これはいけるとか、これはダメだとかを判断する肌感覚や、実際の技術が企業に蓄積していくとも思うので、可能性を限定せず色々なことを検討していくのは、重要なことなんだろうとも思った。本書では、人事の他にも顧客サポート、営業、マーケティング、製造、経営判断、医療、教育、etc...と、様々な分野でのAIの応用例が紹介されているので、AIの応用可能性をざっと勉強したい人にもいいし、興味のある分野でのライバルの動向を知りたい人にも良いだろう。

 本書には、個別の事例とともに、専門家の解説もついていて、それも参考になった。個人的に読んで良かったと思ったのは、「AIの定義は時代によって異なる」という説明だ。AIというのが、機械学習のことなのか、質疑応答システムのことなのか、具体的に何のことを言っているのかは、文脈によって様々だ。また、AIを導入したといっても、ゴミのようなものから本当にすごいものまで様々だ。そういう中で、実際にAIを使って仕事をリードしている人々が、AIの定義はそんなにかちっとしていない、ということを示してくれたのは、自分のもやっとしている部分が、いや、そもそももやっとしているものですよ、と教えてくれているようで、自分の理解が間違っていなかったと自信を持てた。

 当ブログで以前に、ロボティクスやAIの進歩が既存の仕事にどのような影響を与えるかを解説した、渡辺正裕著「10年後に食える仕事、食えない仕事」を紹介した。「10年後に食える仕事、食えない仕事」と本書を比較すると、本書は個別の事例がより豊富なように感じた。しかし、AIとどう付き合っていくべきか、という考察の部分で考えると、「10年後に食える仕事、食えない仕事」の方が、より得るものが多かったように思う。この辺りは、本書の方が発刊された年度が古いので、一概にどうこうはいえないが、読む人が何を知りたいのかによって、読み分けるのが良いのかなと思う。