おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

谷原誠著「いい質問が人を動かす」

 面白い本だった。仕事に限らず日常生活でも、誰かに質問する、ということを当たり前にやっているだろう。ただ、質問の仕方をできるだけ洗練しよう、と日頃から心がけている人はそんなに多くないはず。本書の著者は、弁護士として仕事を行う中で、いい質問をすることの重要性に気付いたそうだ。いい質問を自由自在に使いこなせると、1. 思いのままに情報を得る、2. 人に好かれる、3. 人をその気にさせる、4. 人を育てる、5. 議論に強くなる、6. 自分をコントロールする、という6つのことが出来るようになると著者はいう。

 1から6のそれぞれの目的に応じて、質問のテクニックが本書で書かれている。「ちょっとした言葉遣いの違いで、質問した後に得られる返答の質が変わってくる」、「質問をすることは、相手の思考の中に論理的な流れをつくること」、「答える人が答えやすいような答えを作るのが良い」などは、本書を読んで特に印象に残ったところだ。自分の欠点を知りたいとして、それを直接聞いても、返答は当たり障りのないものである可能性が高い。そこで、逆に長所を聞いてみる。多くの場合、欠点は長所の裏返しでもあるので(長所:話好き、欠点:うるさい、とか)、長所を聞いた答えから欠点を類推する、というのがテクニックの一つとして紹介されていた。また、温泉に行きたい旦那さんが、どのように奥さんを誘うべきか、という話も面白かった。「休みの日にどこか行きたい?」という質問では、奥さんが温泉以外に行きたいと返答してしまうと、温泉に話を持っていくことは難しくなる。そうではなくて、「たまには温泉行きたくない?」から始めると、温泉に行くことに話を進められるというのは、どのような質問をすれば人が狙った通りに動くか、ということをわかりやすく示している例だと思った。

 本書の中で、著者が仕事で誰かに質問をするときには、複数の質問を一旦考えて、そこから一番いい質問を選ぶ、ということが書かれていた。また、これは会話の最中に行なっているとも書かれていた。これを読んで思い出したのは、確か島田紳助さんが何かで語っていたことで(ソースはないですが...)、返答をするときに面白い返答を一つ考えて返答するようでは、話の面白い人になるのは難しくて、瞬間的に面白い返答をいくつか思いついて、そのうちの一番面白い返答をするよう心がけることが大事、という話だ。著者のやっていることもこれに近いように思う。自分に有利な情報を引き出すか、笑いを狙いにいくのか方向性は違うけれども、異なる業種で似たことをやっている人がいるというのは、とても興味深いと感じた。

 蛇足かもしれないが、この本はシンプルなデザインだがとても読みやすかった。弁護士として活躍している著者の文章がもともと分かりやすい、というのもあるかもしれないが、図がなく、重要箇所がハイライトされているだけなのに、全くストレスなく読めた。編集やデザインの方も優秀な方なんだろうと感じた。