おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

えらいてんちょう著「静止力 地元の名士になりなさい」

 自分自身が、子供を生まれたのを機に、地元の企業に転職した経緯をもつからか、興味深く読めた。本書でも言われていたが、自由に移動できる期間は人生で非常に限られている。特に、子供や両親の世話をしないといけない立場になると、遠いところへの引っ越しは気軽には出来なくなる。これは、引っ越しに伴う困難をお金やその他のリソースで解決できるような"強い"立場の人には、全然当てはまらないと思う。しかしそうではない、"弱い"立場の人には本書はきっと役に立つ部分があると思う。

 本書の主張は単純だ。一つの場所に根付いて、地元の名士になれ。要約すると、こういうことだ。別の言い方をすると、地元で長く住むことを決め、そこで周囲の信頼を築いていくべき。これは別に偉くなるという訳ではない。知らない人同士が知らない人のまますれ違いながら生活するのではなく、困っている人がいたら助けてあげて、自分自身も困っている時には助けてもらえるような人間関係を周囲に作れ、ということだ。自分は一人で困ることなど何もないと思っている人でも、例えば風邪をひいて数日間動けなくなるような場合を想定してみれば、困ることが絶対にないとは言い切れないのではないだろうか。

 ここでひとつポイントになるのは、地元というと、生まれ育った土地、という意味が強いように思うが、著者は必ずしもそういう意味では地元という言葉を使っていない。また、辞書でも、生まれ育った土地、という意味だけでなく、その人が長く住んでいる場所、勢力範囲という意味が地元にはあるそうだ。著者もこちらの意味で地元という言葉を使っており、これから長く住んでいくとそれぞれの人が決めた場所を、地元といっている。"決めた場所"というと、なんだか大げさに思えるかもしれないが、著者はここにも布石を打っていて、ちょっとした理由でそれは決めていいのではないか、と主張している。

 本書で紹介されている名士の最高クラスが、選挙への立候補を勧められるような人、ではなく、墓守を任されるような人、としているのも面白かった。また、少子高齢化で、地方の名士でも後継者不足が問題となっており、新たに来た人でも役割を期待される可能性が今後どんどん大きくなるというのも興味深かった。両親や親戚が都市部にみんな住んでいるような人や、独身でばりばり仕事をこれからしていくんだという人には、少々ピンとこない本かもしれないが、そうではない人なら自身の考えを何かしら深める手助けになる本ではないかと感じた。