おすすめビジネス書レビュー

仕事への向き合い方が変わる本を紹介します

チェット・リチャーズ著(原田勉訳・解説)「ウーダループ」

 非常に面白い本だった。本書は、タイトルにもなっているウーダループ(OODAループ)についての本である。OODAループは、PDCAサイクルに変わる新しいフレームワークである。もともとOODAループは、アメリカの軍隊で開発されたそうだ。PCDAサイクルが、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をとってそう呼ばれているように、OODAループも、Observe(観察)、Orient(情勢判断)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字から由来している。
 OODAループは、PDCAサイクルと何が違うのか。その答えの一つが、OODAループは、機動性を高めるために非常に効果的だという点である。軍隊にしてもビジネスにしても、敵や競合に先んずるということが非常に重要である。OODAループを組織のメンバーが実行することにより、現実に即座に応答し行動を行えるようになる。
 言葉でこう書くと、本を読めばただちにOODAループを実行できるようになれるような気もするが、本書の中でも実際にはそれほど簡単ではないことが言及されている。例えば、OODAループが、OODA"ループ"と便宜的にはいっているが、Observe、Orient、Decide、Actを一つ一つ丁寧に進めていくのではなく、むしろ暗黙知的にそれぞれの項目を通過し、最高速度で現実に応答していくことを求めるような考え方である、というところにも、OODAループの難しさが表されているように思う。また、そうしたことを組織レベルで行なっていくのはより難しいことであろう。本書では、OODAループを正しく回せる組織を作るために、重要なポイントについても解説しており、例えば、相互信頼、皮膚感覚、リーダーシップ契約、焦点と方向性、という言葉で解説を進めている。
 本書の面白さは、単にOODAループという枠を超えて、戦略とはどうあるべきか、広い意味でのConflict(他者との競争)にどういう心構えで立ち向かうべきか、といった点を解説しているところにもあると思う。OODAループの提唱者であるジョン・ボイドは、軍で研究を行う過程で孫子宮本武蔵の文献を参照していたそうだ。本書の中でも、孫子宮本武蔵の本書でも度々登場してくる。戦わずとも勝つのが最良、どのようなことでも相手の心を崩すのが重要、奇なくして正なし、などの観点で、戦略とはどうあるべきか、という点を考えていくのは非常に面白かった。また、「そもそもConflictに勝たなければいけないのは、自分が望むように生き残るためだ」といった、人生にも効いてくるような言葉も含蓄があった。
 加えて、本書を良い本にしているポイントとして、訳者の解説がしっかりしているところがあると思う。本書が戦術ではなく、戦略を解説しているためだと思うが、非常に抽象的な内容を含む部分があり、ところどころ飲み込むのが難しい部分がある。そうした部分については、章末の訳者の解説が非常に親切だった。